春の季語である「花衣」。花見の時に着る女性の晴れ着を意味するそう。何とも趣のある表現ですよね。まだまだ寒い日が続きますが、暦の上では2月4日の立春が春の始まり。とは言っても花見も桜も到底先の話ですが...。
そんな中、気分だけでも春を先取りできるような、はんなり雅なお茶菓子をご紹介します。
その名も「花ごろも 24枚入」。慶応元年(1865年)創業の老舗京菓匠、『甘春堂本舗』の看板銘菓です。
淡い色の和紙をあしらった優美な包みがいかにも京都らしく風流ですね。小袋には梅・味噌・柚子の文字があります。開けてみると…。
パッケージで使われているのと同じ色の、可愛らしい麩焼きせんべいが。少しでも力を入れたら崩れてしまいそうなくらい繊細なので、そっと手に取って眺めてみると、せんべいの間に餡が挟んでありました。表面からもうっすらと透けて見えてはいたのですが、それぞれ異なる種類の餡のようです。
中身は「梅餡」「柚子餡」「白味噌餡」の3種類。かつて千利休が初めて茶菓として用いたとも言われるほど、お茶と縁の深い麩焼きせんべい。せっかくなのでお抹茶を点てていただくことにします。
サクッとひと噛みすると、麩焼きせんべいは途端に口の中でとろけていきました。まるで雪どけのような、なめらかな口当たり。儚い余韻が後を引き、どことなく侘び寂びを感じさせるお菓子です。
“麩焼きせんべい”ということで麩を使っているのかなと思っていたのですが、主な原料はもち米とのこと。米と水の調和、そしてせんべいの焼き加減にこだわり、昔ながらの製法で丹精込めて手作りされているそうです。素朴で飾らない味の中に洗練された雰囲気が漂うのは、代々研鑽を重ねてきた職人たちの技術の賜物。こうしてお抹茶と一緒にいただいていると、日本の文化を誇りたくなるような雅やかな気分になりますね。
さて肝心の餡ですが、梅・柚子・白味噌のいずれも輪郭のくっきりとしたお味。せんべいのほんのりとした甘さと見事に重なり合って、味に幅を持たせてくれます。
私のお気に入りは柚子餡。柑橘類ならではのパッと目の覚めるような爽やかさがあり、清涼感溢れるさっぱりとした味わいです。まさに「花ごろも」の名にふさわしい、晴れ着のように上品で華やかな銘菓ですね。
ちなみに余談ですが、「花ごろも」とちょうど同じ色合いのひな祭りの菱餅には、一説によるとそれぞれの色に意味があるそう。ピンクは桃、緑は大地、白は雪。3色が混ざり合うことから、「雪がとけて大地に草が芽生え、桃の花が咲く」ことを表すとか。果たして「花ごろも」にもそんな願いが込められているのでしょうか…。そうは言いつつ、こちらは通年商品なのでいつでも手に入るのが嬉しいところ。
お菓子を食べながら四季の移り変わりに思いを巡らせ、春の訪れを心待ちにしたいと思います。