そのひとは牛タンが好きだった。
焼肉に行くと、まずは上タン塩、途中で並タン塩、〆に上タン塩……どんだけ好きなのよ、って頼み方してたっけ。毎月、給料日後の週末は、決まって経堂(東京・世田谷区)にあるレトロだけど抜群に旨い焼肉「明月館」に行ったもんだ。
そんなことを、このロースト牛タンが届いた時にふと思い出して、なんだか口の中にほんのり苦味が広がった。
京都の『下鴨茶寮』と言えば、押しも押されもせぬほど有名な老舗料亭だ。昔、日本茶の本を作っている時に取材をしたこともある。そんな料亭が作るロースト牛タン、どうしたって気になるじゃないか。
まずは冷蔵庫でゆっくりと解凍させたら、何も付けずにひと口。シンプルな味付けながら、上質な牛タンの濃厚な旨味がしっかりと伝わってくる。
料理家として、何か料理に活用して創意工夫できないか考えてはみたものの、これは奇をてらったことをせずにストレートに食べるのが正解だ。
特筆したいのが、一緒に添付されていた九条葱味噌の旨さ。塩味、甘み、香味のバランスが素晴らしく、これだけで注文したくなる出来だ。こういう調味料にすら感動を生み出してしまうところに、さすが料亭であることを否応なく意識させられる。
さて、これだけ旨い牛タンをひとりで食べるのも勿体ない。口の中に感じていた苦味をコーヒーで流しながら、かつて結婚生活を送っていた牛タン好きのあのひとに連絡を取るのであった。
もちろん、物語が再び始まることは、ない。
下鴨茶寮
【下鴨茶寮】[のまえ] ロースト牛タン
¥7,182(税・送料込)
創業安政3年(1856年)、人生の記憶に残るひとときをおもてなしの心に、伝統に寄り添いながら今を磨き続ける料亭を目指している、京都の老舗料亭『下鴨茶寮』。こちらの商品はその『下鴨茶寮』がお届けする、低温でじっくり加熱した「ロースト牛タン」。...
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達人
ロータチバナ
料理研究家・メディアプロデューサー
様々な食に関するメディアやイベントなどをプロデュースする傍ら、趣味の料理研究が高じて、2019年に著書「悪魔のレシピ(枻出版社)」発刊とともに料理研究家としての活動もスタート。その他、地方食材を活用したブランディング提案や講演、レストランジャーナリストとしてテレビ出演なども多数。