伝説の南部杜氏・菊池幸雄氏が30年前に醸し、熟成酒を知り尽くす日本屈指の酒蔵「岩瀬酒造」が満を持して世に送り出す日本酒。
そんな『平成VINTAGE』が30年という年月を経て、はたしてどんな味に仕上がっているのか? 熟成酒ファンでなくとも気になることでしょう。
『平成VINTAGE』が目指すのは、他では決して楽しむことのできない唯一無二の味わい、喜びを皆様にお届けすること。そして、日本酒の熟成酒の世界をより多くの方に知っていただくこと。
そこには、皆様がまだ知らない日本酒の新たな世界が待ち受けています。
ワインにヴィンテージがあるように、日本酒にも、熟成させることでその味わいや表情を変える熟成酒の世界があります。
そして、いま日本酒界では、その日本酒ヴィンテージの美味しさ、価値が見直され、大きな注目を集めています。その動きは、日本国内だけにとどまらず、世界からも熱い視線が注がれているのです。
事実、2018年10月に開催された世界的ワインコンクールとして知られる「ブリュッセル国際コンクール」には日本酒部門が開設。そこには「純米大吟醸」や「純米酒」「スパークリング日本酒」などと並び、「熟成古酒」部門もラインナップされたのです。
日本酒における熟成酒の定義はありませんが、その普及と製造技術の向上を主な目的とする「長期熟成酒研究会」では「満3年以上蔵元で熟成させた、糖類添加酒を除く清酒」を熟成酒と呼んでいます。
そのなかでも『平成VINTAGE』は、数年単位で熟成させたものとは異なる、30年もの間、酒蔵で熟成させた本物のヴィンテージなのです。
抜栓した瞬間に漂うシェリー酒やブランデーにも似た甘美な香り、深みをたたえた琥珀色の液色。口に含めば、とろりとした口当たりとともに広がる米の甘さと旨みは、『平成VINTAGE』だからこそ引き出せる熟成酒の世界といえます。恍惚とするその味わいには、5年、10年の熟成では到底たどり着くことができない、本物のヴィンテージだけが持つ愉悦があるのです。
『平成VINTAGE』が“ヴィンテージ”を名乗る理由は、ただ長期間熟成させたことだけが理由ではありません。
というのも、この『平成VINTAGE』は、現代の名工でもある伝説の南部杜氏・菊池幸雄氏が、杜氏として最も脂がのっていた30年前に醸した日本酒でもあるのです。
しかも、熟成酒の世界では、醸造年の異なるものをブレンドし、味を調えた状態で市場に出回ることが多いのですが、『平成VINTAGE』は30年前に菊池氏が醸した日本酒をストレートで瓶詰め。つまり、汚れなき30年もののヴィンテージなのです。
その『平成VINTAGE』を醸した菊池氏といえば、現在88歳。10年ほど前に現役を引退し、今は岩手県遠野市宮守町にあるご自宅にて老後の時間を愉しんでいます。
そんな菊池氏に話を聞くために、プロジェクトチームは岩手県遠野市へ。自ら醸した酒との30年ぶりの出会いと、当時の酒造りへの想いを語っていただきました。
「酒造りに大切なのは、なんと言っても水。『岩瀬酒造』の水は、全国でも珍しい硬水だから濃醇な酒が生まれる。これにつきる。」
さらに、菊池氏は昔を思い出すように、さらに力を込めて言葉を紡ぎます。
「その水は、貝殻の層を通った井戸水。豊富に含まれるミネラルが、日本酒の仕込みにおいてさらなる発酵を促し、膨らみと旨みのある日本酒を生むんです。山廃造りという昔ながらの仕込みも、どっしりとした旨い酒を生む条件のひとつ。そんな日本酒が熟成を経ることによって、さらなるふくよかな味わいとなるのだと思います。」
そう言って『平成VINTAGE』を少し口に含んだ菊池氏。高齢のため、今はもうお酒を飲むこともなくなった菊池氏ですが、自ら醸した30年前の酒を味わうと、少し口角を上げました。そして、しばし、遠くを見つめる菊池氏。その表情には、言葉にできない30年分の思いが詰まっていました。
そんな菊池氏は、現役当時は山廃造りの名手として名を馳せてきました。しかし、その山廃造りとは、どんな酒を指すのか?
知らない人のためにも、ごく簡単に説明しておきましょう。他の日本酒との違いを知れば、『平成VINTAGE』の魅力もさらに広がるはずです。
「山廃」とは「山卸し廃止」の略です。「山卸し」は日本酒の酒母造りにおける古典的な製法「生酛造り」において、半切り桶に入れた米と水を、櫂を使ってすり潰し、乳酸菌を発生させる、大変人手も労力のいる作業。その「山卸し」の作業を行わなくとも乳酸菌を発生させることができると、明治時代の後期になって考案された造り方が「山卸しを廃止した」山廃造りなのです。
ただ、山卸しがなくなったからといって、日本酒造りが楽になったかといえば、そうではありません。現在、日本酒の酒母造りは、市販の乳酸を添加する「速醸」と呼ばれる造りが一般的ですが、「速醸」はおよそ2週間で酒母が出来上がるのに対し、「山廃造り」ではその倍の1ヶ月ほどかかります。そして、自然界から乳酸菌を取り込んで酒母を造るため、何より杜氏の経験値がものをいう作業なのです。
こうして造られた「山廃造り」の酒は、濃醇な味わいになり、コシが強く、香りにも奥行きが出る、どっしりした酒になると言われています。その山廃造りで醸された酒は、寝かせることでさらなる旨みが引き出され、奥行きのある味わいへと変化していく酒質も特徴としています。
“ヴィンテージ”を名乗る所以は、菊池氏が醸した酒、山廃造りという特徴の他にもあります。
というのは、『平成VINTAGE』の酒蔵である「岩瀬酒造」は、亨保8(1723)年創業の290年以上続く老舗酒蔵。その長い歴史の中では、昭和22(1947)年の全国清酒鑑評会で主席を受賞した経験もあり、その酒造りには定評があります。一方で「岩瀬酒造」は熟成酒の蔵としても有名で、昭和40年代から貯蔵を始めた熟成酒は、今や日本の酒蔵でも屈指のストック数を誇ります。つまり、『平成VINTAGE』は熟成酒の先掛けともいえる「岩瀬酒造」が自信を持って世に送り出す酒でもあるのです。
もちろん、その熟成酒を育むうえでも酒造りの質は重要なポイント。しかし、「岩瀬酒造」は、ワインの世界では絶大なる信頼を誇るパーカーポイントにおいて、「純米 大吟醸 岩の井 山廃」が95点を叩き出したことも!
さらにいえば、2018年10月に開催され、今年から新たに日本酒部門「SAKE -selection-」が設けられた「ブリュッセル国際コンクール」では、「岩瀬酒造」の秘蔵熟成酒20年が熟成酒部門でプラチナ賞を受賞。これは数ある酒蔵の酒をおさえ、「岩瀬酒造」の熟成酒が世界に認められた証拠だといえるでしょう。