ブランデーケーキ＆和酒彩菓 アソート

まだ湯気が立ち上るほど熱々焼きたてのパウンドケーキをオーブンから取り出すと、すぐに作業台へ。間髪入れずに店主・薬師寺隆氏が行うのは、ほかほかのケーキめがけて、大量のブランデーシロップを回しかける作業だ。それをすぐさま、銀紙で包み山口県宇部名物『ロイヤル』のブランデーケーキは完成する。驚くほどシンプルかつアナログな作業。

「これがウチの看板であるブランデーケーキ。とは言っても、昔は町の洋菓子店で結構、普通にあった大人のケーキなんです。九州エリアでは結婚式の引出物などで見かけたケーキでもあります」と隆氏。

父の文夫氏が昭和48年に山口県宇部市にある宇部新川駅前に自身のお店『ロイヤル』をオープン。店の名物にと試行錯誤を重ねて完成させたのが、当時まだまだ知られていなかったブランデーケーキだったそう。それをゆっくりと醸成させるように育ててきた。いつしか文夫氏のブランデーケーキは評判を呼び、全国菓子大博覧会で、名誉会長賞など、数々の賞を受賞するほどに。店を現在の南小串に移してからも、長くこの地で愛される地元の味になったという。

「でもですね、保存技術が飛躍的に向上するようになると保存の効くブランデーケーキは過去のものになりつつあった。今では町の洋菓子店でもほとんど見なくなりましたから」と隆氏。

それでも店の看板商品としてブラッシュアップを重ねた『ロイヤル』のブランデーケーキは、さらなる進化を遂げる。なんと使用するブランデーの質をとことんまで追い求めたのだ。現在、最高ランクのエクセレントでは、ヘネシーX.O.を使用。大量に回しかける作業の最中は、リッチで甘い香りが部屋中に満ちるのだ。

「一周回って、ほかが作らなくなると、逆に新しくなった。まさに温故知新。ゆっくりと時間をかけて味わってもらうと、どんどん味が変わる面白さもウケています。特にお酒の好きな方へのギフトに本当に喜んでもらえています」

そうなのだ、できたてよりも１週間後に、しっとりと味が落ち着くのがブランデーケーキ。ケーキの上下を入れ替えながら冷蔵庫で寝かせることでお酒を中へ中へと染み込ませるとさらに味わいはリッチに。上下の返し具合でお酒の染み込み方が変わるので、2週間後の味の変化など、自分好みの味わいに育てる楽しみもある。

2019年には地元への貢献も認められ、フードアクションニッポンアワードにも選出され、さらに人気を集めている。父の作ったこだわりの味を、息子が守り進化させたブランデーケーキ。そんな家族愛があふれるストーリーもまた、全国のブランデーケーキ好きの心を鷲掴みにする逸品だ。