時代は平成から令和に移り変わりましたが、なんと、オンワード・マルシェで昭和に製造された焼酎を発見しました。長期熟成されることの多い麦焼酎ですが、これまで私が飲んだ最も古いもので20年ほど。30年以上前に醸され、年号を3つもまたぐことで、一体全体どのような味わいに仕上がるものなのでしょう?
スライド蓋式の立派な桐箱に入り届いた「麦焼酎33°月楽」。ボトルは透き通る青色、昭和60年製造と書かれた金色のラベルが水面に映る月の光を彷彿とさせます。
製造元の『老松酒造プレミアム』は、日田天領水など清らかな水源があることで知られる大分県日田市の老舗酒蔵。創業は寛政元年(1789年)と県内屈指の歴史があり、昭和45年(1970年)からは熟成焼酎造りに力を注いできたそうです。
こちらの昭和60年(1985年)に仕込まれた麦焼酎も、試行錯誤のなかで味、色、香りを深めてきたもの。軽やかな口当たりになるのが特徴の白麹で仕込み、伝統的な常圧蒸留を行い「タンクで数年寝かした後、味を整えるため樽に移し替え数年、再びタンクに戻し数年、次は色付けのために樽に入れ数年、またタンクに戻し数年、今度は香り付けのためにまた樽へ入れる」といった、気の遠くなるような時間と手間暇をかけています。
色合いは月明かりに照らされたような淡い橙。月楽という名前の由来はここにあるのかもしれません。口当たりは、水郷日田らしさを感じさせる透明感があり、円熟味のある優しい甘さも広がります。香りは決して派手なものではなく、事前に長期熟成と知っていなければ逃してしまいそうなほど繊細。神経を研ぎ澄ませば、口に含むたびに香りが変化するのが感じられ、上物の葉巻を楽しんでいるような気持ちになりました。
一般的に麦焼酎といえば、クセがないため幅広い料理に合うとされますが、この古酒に関しては、繊細な風味を損ねないよう注意が必要。香りが穏やかで味がはっきりしており、熟成感のあるものをと考え、今回は梅干しと合わせてみました。
香りを立たせるため、飲み方はお湯割り。70年代後半から80年代にかけて第1次焼酎ブームで流行した「焼酎6:お湯4」の比率で割っています。梅干しが若々しく感じるほど焼酎の熟成感が際立ちました。
じっくりと味わいましたが「まだ魅力すべては解き明かせていない」と感じるほど、あまりに奥が深い「麦焼酎33°月楽」。それこそ第1次ブーム以前から焼酎を味わい続けてきた愛好家の方であれば、よりはっきりと、多彩な風味を堪能できるのではないでしょうか。