年間生産500石の小さな蔵で生み出される、こだわりの原酒を自宅で

「バーボンで言うところのスモールバッチですわ、ウチは」山野酒造の社長・山野久幸さんは、そう豪快に笑った。
スモールバッチバーボンとは、少量生産のバーボンを指すウイスキー用語なのだが、主に選び抜かれた少数の樽を指すことでも知られる。
山野酒造の年間製造は500石。
まさに少量生産の酒で間違いないのだが、山野さんの話を聞けば、やはりそのこだわりは尽きないことが分かる。
「大阪には他の県のように酒造技術試験場がありません。だから、大阪府独自の酒造適合米もなければ、酵母もないんです。新潟の酒は淡麗辛口みたいな大阪府単位の味の統一性がないんです。それぞれの蔵元が独自に酵母などを入手し工夫を凝らすのが基本。それが合っていたのかな」。
生み出される500石の日本酒の内、約8割は特定名称酒だというから、まず驚き。
さらにその内の4割は原酒で蔵出しするという。
数で勝負ではなく質で勝負。
それこそがスモールバッチの矜持なのだ。
小さな蔵と侮るなかれ、ここでは小さな蔵だからこそできる挑戦的な酒が次々と生み出されているのだ。

山野酒造の酒造りはこんこんと湧き出る、ミネラル豊富な水にある

大阪、京都、奈良の境に位置する交野の郷で良質な米と清らかな水による酒造りは古くに始まり、江戸時代末期より代々受け継がれてきた「山野酒造」の酒造り。
「仕込み水は、創業以来、絶えることなく、こんこんと湧き出る生駒山系の伏流水です。蔵内に井戸があるんです」。
かつて鉄道のトンネルを通すことができなかったほどの硬い岩石層がある地盤。
それを滲み出るように通り抜けた水は、適度なミネラルを含み、酒造りには理想的だと山野さん。
さらに敷地内では米作りにも意欲的。
「大阪らしい酒にも挑戦しようと思って、米作りから始めています」。
まだまだやりたいことが頭の中にたくさんあるのだ。
それもこれもすべては良質な水のおかげ。
スムーズな口当たり、澄んだ香りが特徴の山野酒造の酒。
すべては、この清冽な水から生まれているのだ。

こだわりの南部杜氏との出会いにより、年々質を上げる銘酒がずらり

現在の山野酒造の酒を語る時、忘れてならないのが南部杜氏である、浅沼政司さん。
「かつては酒質の方向性が定まらず、何度も杜氏を変える時期があったんです。なんせ少量なので、こだわりだけは捨てたくなかったですからね」。
そんな時、浅沼さんと出会うことができ、その真摯な姿勢と酒造りの情熱にほだされ、以来18年、山野酒造の酒は浅沼さんとともに歩み、年々その質を上げてきた。
「なんと言うんですかね、浅沼さんはそれぞれに“らしい酒”を造ってくれる人」。
山廃ならばガツンとごつい味わい。
大吟醸ならば華やかな香りを全面に。
そんな1本1本へのこだわりがまさに山野酒造の味となり、この小さな蔵の未来を紡いでいるのだ。