ストレスフリーな環境でのびのびと育つ、健康的な鴨たち

「お腹をペタンと地面に着けて、片足を後ろに伸ばしている状態。あ、あの鴨を見て下さい。あの子はかなりリラックスしていますよ」
合鴨がいるケージを覗き込みながら辻朗さんは優しく微笑む。彼は鳥市精肉店で、合鴨専任として日々の職務に勤しむ現場責任者。
1200羽はいる、この農場を手伝うほか、もう一軒、同店が運営を引き継いだ農場もあって、そちらでも合鴨と、ずっと向き合っている。
「籾殻を敷いているのはフカフカしていて、鴨たちが気持ちよく過ごせるから。籾殻の香りにはリラックス効果もあると聞いています」
そう教えてくれたのは柴田博隆さん。
2013年から始まった鳥市精肉店の合鴨事業に、当初から携わってきた営業部のリーダーだ。
「JASが定める地鶏の飼育密度は1m2に10羽以下ですが、この農場も、もう一軒も、その10倍以上の広さがあります。
鴨は臆病でストレスにも弱いのですが、ウチの鴨たちは本当にのびのび(笑)。
餌ももちろん独自に配合したオリジナルで、大麦やマイロなど、穀物の割合が高く、かなりコストがかかっていますが、変えられません」
今度は、柴田さんが力強く、そして、優しく微笑んだ。

高品質な豊橋産の存在を、全国に知らしめた『あいち鴨』

辻さんらの尽力によって、大切に育てられる合鴨こそ、鳥市精肉店が名付け、同店でしか買うことのできないブランド鴨、『あいち鴨』。
老舗の高級料亭などが扱う京鴨と同じチェリバレー種で、上品な風味があり、旨みは濃厚。
豊橋で創業、80年以上もの間、地元で愛され続けてきた鳥市精肉店が合鴨の生産に携わるようになった背景には、高齢化や後継者不足で存続が危ぶまれている豊橋の合鴨農家の現状があった。
精肉店として、「素晴らしい品質で美味しい」と太鼓判を押し、自信を持って商ってきたからこそ、このまま豊橋の合鴨が消えてしまうのは惜しい。
そんな思いから、すでに廃業を決めていた一軒の農家に師事。
ノウハウをきっちり学びながら、さらなる品質の向上を目指し、独自にストレスフリーな環境を模索していった。
後に、その農場の運営は同店が手掛けるように。
そうした熱意と努力があったからこそ、『あいち鴨』の今がある。柴田さんは言う。
「鴨って採算がとりづらい家禽なんです。餌はたくさん食べるし、過密に飼うと質が落ちる。けど、そこで諦めず、私たちがブランド化して魅力を広めていけば、生産者だけでなく精肉店の仕事も、例えば、若い人たちに魅力的に映るだろうし、何より、国産の食材が持つポテンシャル、素晴らしさを多くの人に伝えることができる」
国産だからこそ、品質が良く、美味しい。
あいち鴨は、安さばかりに目がいきがちな昨今の風潮に、一石を投じる存在でもあった。

美味しさをそのまま届けたいから、すぐに冷凍し、数量も限定

「朝、締めたらすぐ冷凍。そうすることで味を落とさず出荷できる」
合鴨は足が早く、締めてから12時間も経ってしまうと、雑味やエグみがでてしまうという。冷凍は、新鮮なあいち鴨の魅力を外部にそのまま届けるために欠かせないプロセス。
売り切り御免で平日のみ、鳥市精肉店の店頭に午後3時から並ぶ冷蔵もあるが、そちら限定3羽分で、その日の消費が前提。
それだけ、鮮度は重要なのだ。
加工場を店のすぐ近くに設置したのも鮮度を保ちたかったから。
「輸送に時間のかかる、東京の著名なレストランのシェフに、冷凍でなく、冷蔵で仕入れたいと依頼されたこともあったのですが、食べてみて『やっぱり冷凍の方が美味しい』とご実感されたこともありました」と柴田さん。
1日に締める合鴨も70羽限定を貫いている。
「一度、200羽とかで試してみましたが、品質が変わってしまった」
常に高いクオリティが維持できるよう、努力を重ねているのだ。
「もう外部に出荷する今年分のあいち鴨は販売が終了しています」
だから、『あいち鴨鍋ギフト』、『あいち鴨スモーク食べ比べギフト』、『あいち鴨生ハム食べ比べギフト』は希少なあいち鴨が自宅で楽しめる、価値ある商品。
生ハムは2016年から販売を開始した新製品で、ピックル液に漬け込む一般的な製造法とは異なり、手作業で塩をすり込み、塩分量も2%ほどに留め、本来の旨みを活かしている。
「塩辛くないから厚くカットできる。その方が食感も楽しめます」
口にすれば、ほどよい塩気を感じた後で旨みがほとばしる。
国産で手作業を重視して作られる、あいち鴨。
その実力に改めて感激する。