創業以来の伝統である自社米を守り続ける全国唯一の酒蔵

田植えから始める酒造り。例え話ではない。
1786年の創業以来、一貫して自社の田で独自の酒米造りからスタートする。
全国1600を越える酒蔵のなかでも、代々このスタイルを守り続けるのはここ「久世酒造店」ただ一軒となった。
自社米を使うメリットは多々あるが「やっぱり一番は、独自の味を出せることですかね」と専務の久世義宏さん。
米の特性を酒に活かし、ほかでは真似のできない味を作り上げること。
それが何よりの長所なのだ。一方で米の出来不出来が酒造りに直結することや、大量生産ができないこと、そして何より作業量が格段に多くなることなど、難しいことも多い。
それでも頑なにこの方法は守り続ける。
自社ブランドの酒米・長生米。粒が大きく、芯白もしっかりしたこの米は、「久世酒造店」の酒に上質な味わいと揺るぎない個性を与えてくれる。

軟水と硬水。清冽な2つの水を使い分けて酒造り

米と並ぶ酒造りの根本である水にも個性がある。
こちらでは江戸時代まで近隣にある湧水“清水(しょうず)”で酒を仕込んでいた。
敷地内に井戸を掘ってからは使用しなくなっていたが、30年ほど前にふと調査をしてみると、井戸水と清水の水源も品質もまったく異なることがわかった。
清水は軟水、井戸水は硬水。軟水で仕込む酒は柔らかく穏やかな女性的な味になり、硬水は力強く引き締まった男性的な味になる。
それならば両方を使い分けて酒を造ろう。
そうして「久世酒造店」の新たな酒造りがはじまったのだ。
異なる水源を持つ酒蔵というのは、異例中の異例。米と水。
酒の根幹を支えるこの二つが特別であることが、この蔵の酒を特別なものにしていくのだ。

米、水、人。不可欠の3要素が見事に揃う

さらにもうひとつ、この蔵には特別がある。それが人だ。
一般的に杜氏が変わると少なからず味が変わる、といわれている。もちろんそれは悪いことではないが、長い歴史の蔵の場合、思わぬ変化が起きないとも限らない。
しかしこの「久世酒造店」では、全国では珍しく、ひとつの家系が代々杜氏を襲名する。
現在の杜氏である北川真治さんも、その系譜。
蔵の伝統とは別に、親から子へと受け継がれる技。
それがこの蔵の酒を、揺るがぬ伝統として確立しているのだ。
「久世酒造店」が建つのは、加越能の三叉路。
加賀、越中、能登の境目となる交通の要衝だ。
この地に開かれて430年、数々の“日本で唯一”を守りながら、今日も酒造りを続ける老舗。
米、水、人が合わさり生み出される銘酒は、いま酒好きの間でじわじわと話題を集めている。