ハレの日から日常へ。輪島塗の印象をガラリと変える独自の汁椀

日本を代表する高級漆器として知られる石川県輪島地方の輪島塗。
1700年代に塗師屋としてはじまった桐本家を今に受け継ぐ『輪島キリモト』の漆器を手にすると、そんな既成概念は吹き飛ぶ。
そう、目の前の漆器は実に現代風。毎日の生活で料理やみそ汁を少しおしゃれに盛り付けるのはもちろん、見方を変えればスプーンを使ってシチューやスープを味わうのにも重宝しそうなのだ。
それでいて手にしっくりと馴染み、落ち着いた表情を見せる。
これこそが輪島塗の伝統技法を守りつつ、革新を続ける『輪島キリモト』の「蒔地」や「千すじ」の汁碗だ。
「金属のスプーンを使ってもらっても、傷がつきにくいのが特徴です。ハレの日の輪島塗から、日常の輪島塗へ。漆が持つ、やさしい触感や風合いは普段使いしてこそだと思うんです」。
同社の代表取締役であり、漆デザインプロデューサーの桐本奏一さんはそう笑い、自らの手で器をやさしく包みこむ。

漆器にデザインの息吹を。伝統の継承とは飽くなき挑戦の連続

生まれも育ちも漆器の里・輪島に育ち、家業は木と漆の創作工房。
常に輪島塗が身近な存在であったという桐本さん。
漆の可能性を追求し、次々と斬新な漆器を生み出すのには理由がある。
「幼少から親しんできた漆器。漆の堅牢性やメンテナンスさえすれば永く使えるという、素晴らしい性質を多くの人に知ってもらいたいというのが、常に心のどこかにあったのです。そうして大学で学んだのがプロダクトデザイン。“デザインは今の暮らしを、より気持ちよく快適にするためのもの”という教授の教えを経て、今の暮らしに寄り添う輪島塗というテーマが浮かんできたのです」。
筑波大学でのデザイン専攻を経て、コクヨ株式会社へ入社。同社でオフィスプランニングに携わるなど、さまざまな社会経験こそが輪島塗の伝統的なイメージを大きく動かす、挑戦への糧になる。
漆が現代の生活に溶け込む。それは桐本さんの願いであり、伝統の継承。
ダイニングにすっと馴染む漆器にこそ、使う器としての輪島塗の美しい本質が宿るのだ。

職人の共存により可能性を広げた輪島塗。今日もこの場所で美しい器が生まれる

『輪島キリモト』の工房は実に多彩だ。従来の輪島塗とは、工程ごとに専門の職人集団が存在し、それを塗師(ぬし)が取りまとめ、販売を行うという独特の分業制に支えられている。
それが『輪島キリモト』では、木地製作にはじまり、漆塗り、デザイン、販売と、それぞれを手掛ける職人が共存する。
黙々と作業をする職人たちが、部屋ごと、スペースごとに、全く異なる作業を進めているのだ。
こうすることで職人の連携が取りやすく、自社で扱う領域は広がる。
そうして生まれたのが、下地の蒔地技法をを表面に応用した「蒔地」や、職人の手の動きによってできるすじ模様を器の表面に留める「千すじ」という独自技法だ。
石川県の能登半島北部。緑豊かで、静謐、心地良い海風の通り抜けるこの場所で、今日も木と漆を使った革新的な美しい器は作られている。