幅広い知識を武器に、科学と伝統の両面から発酵にアプローチ

「味噌は微生物の力で生きているんですよ。だからこそ面白いし、難しい」快活な調子でそう語るのは『金光味噌』の五代目・金光康一さん。
実は金光さんは理系大学で数学を専攻し、卒業後は一般企業のサラリーマンとして働いていた人物。
家業を継いだ後も、その経験と論理的思考は味噌造りに活かされている。
たとえば熟練職人が“勘”に頼っていた作業を、可能な限り数値化。
大豆の硬さや水分量が、数字に置き換えられた。
次々と電子化されるデータに「味気ない」といわれることもあったが、これにより出来が良かったロットの根拠が明確になり、味の平均値の底上げにつながったのだ。
もちろん、長年の勘に頼る部分もなくなるわけではない。
発酵には気温や湿度はもちろん、空気中に漂う菌まで、とりまくあらゆる環境が作用するもの。
100年以上使用する杉樽で熟成される味噌には、やはり積み重ねられた職人の叡智も凝縮されている。

古くから愛される伝統の府中味噌に、いち早くオーガニックの概念を導入

府中市は、広島県内の最高気温と最低気温をマークする寒暖差の激しい土地。
寒い時期に仕込むことで生存競争により麹菌の質が上がり、暑い夏を越えさせることで発酵が促進され味に深みが出る。
まさに味噌造りに最適な土地というわけだ。
そんな府中市に『金光味噌』が創業したのは明治5年のこと。
周辺で育つ良質な大粒大豆と、芦田川流域の最上級米、そして清冽な地下水を使って仕込む味噌で、その名を広く轟かせることとなる。
さらに有機味噌の製造にもいち早く着手。
有機農産物の認定団体が現在ほど確立されていない1980年頃より有機味噌の製造をはじめ、有機JASは制度創設と同時に第一号の認定工場に。
「食品は健康に寄与せんといけん」先代からそう教えられてきたという金光さん。
現在では市内の学校給食に使用されるなど、その揺らがぬ信念が高く評価されている。

世界に広がる「和食」の文化。伝統の味と新たな発想でさらなる飛躍を目指す

味噌や醤油などの発酵食品に支えられる「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたのは2015年のこと。
しかし喜んでばかりもいられない。
世界遺産に登録されたことは、世界的にその価値が認められたことの証明である一方、あえて遺産として守らなければ先細りの運命にあることも示唆するからだ。
もちろん老舗の看板を背負う金光さんも肌で感じている。
その打開策こそが“守り続ける伝統”と有機素材に代表される“新たな価値の創出”という両翼だ。
有機大豆と有機玄米で仕込む「有機玄米みそ」、上質な甘みを湛える無漂白の「有機白みそ」から、醤油代わりに使える「有機しょうゆ麹」まで。
「毎日使うものだからこそ、ちょっとでも良いものを」そんな思いを胸に、日々発酵と向き合う『金光味噌』。
その安心、安全で滋味深いおいしさに、改めて伝統食の素晴らしさに気付かされる。