藍のように深く、瀬戸内の海ように優しい。この工房だけの特別な青

あるとき道後温泉の旅館から多数の食器の注文が入った。
注文に合わせてさまざまな種類を納入する。
そのなかにたったひとつだけ、ぼかし塗りの器があった。
後日、その旅館の客が、この工房に訪れた。
あの青のぼかし塗りの器を売ってください――後にここ『ヨシュア工房』の代名詞となるヨシュアブルーは、こうして世に出たのだ。
「実はヨシュアブルーのゴス(陶芸用絵の具)は、30年前からできていたんです。でもお客様の目に触れ、反響を呼んだのはまったくの偶然」と語るのは、竹西辰人さん。
藍のようであり、しかしほのかに緑の色彩が潜む。
深みがありながらも、瀬戸内の海のように優しい。
現在では窯のなかの8~9割がこのヨシュアブルー。
ほかでは決して見ることができない不思議な青が、人々の心を捉えているのだ。

職人と作家の二つの顔。方向性は異なれど、根底に流れる思いは共通

『ヨシュア工房』の起源は、昭和40年に築窯された「砥部焼窯元 圭仙窯」。
2000年に現代表・竹西辰人さんが二代目を継ぎ、翌2001年に現在の屋号に改められた。
どっしりと重厚で、その丈夫さから、喧嘩器ともよばれる砥部焼。
その伝統を守りながらも、新たな視点で創作に励むのが竹西さんの持ち味だ。実はこの竹西さん、職人として制作や設計に励む傍ら、作家として活動。
愛媛の陶芸展で最優秀賞、日本伝統工芸展の連続入選をはじめ、数々の栄誉ある賞に輝く実績の持ち主なのだ。
もちろん、日常使いを念頭に置く器と芸術性を追求する作品では方向性が異なるが「砥部焼に見えないもの、ほかにはないものを作りたい」という信念は共通。
心が豊かになるもの、生活の潤いとなるもの。
そんな素敵な器を目指して、日々土と向き合っている。
「焼き物ではなく、夢を売っているんです」少し照れながら竹西さんはそう語ってくれた。

試行錯誤の末に生まれた深い青。食卓で使用してこそ、その魅力が際立つ

陶器の青を出すのは、レアメタルのコバルト。
ただしそれだけだとただ派手でキツイ青になってしまう。
「いろいろ混ぜることで、深みや奥行きを出していく。料理と同じですね」そう言って竹西さんが見せてくれたのは、とある石を砕いた粉末。
ヨシュアブルーの深みを出す、秘伝中の秘伝という素材だ。
この石にたどり着くまでに、それこそ数えきれないほどの素材を試したという竹西さん。
そんな試行錯誤の末に完成したゴスを、さらにぼかし塗りという手法で仕上げることで、深みある独特な青「ヨシュアブルー」が生まれるのだ。
「使ってもらうことが前提ですから、盛り付ける料理との相性も重要。この青にはあらゆる色彩を受け入れ包み込む深みがあります」との言葉通り、使用してこそ輝きを放つのもこの器の魅力だろう。
ちなみに工房、作品両者の名となっている“ヨシュア”は、聖書の「出エジプト記」に登場するモーセの次のリーダーの名前。
新天地で新しい領域を獲得したヨシュアのように、焼き物の世界で新たな挑戦を続けていきたいという思いの象徴。
ここでしか成し得ない「ヨシュアブルー」はこの先、砥部焼の歴史を塗り替えることになるかもしれない。