じっくりと発酵、熟成させる静置発酵法による昔気質のお酢造り

食用酢の製造方法としては、大きく分けて連続発酵法と静置発酵法の2つあるのをご存じだろうか。
連続発酵法とは、別名・機械速醸法とも呼ばれ、文字通り短期間で大量のお酢を作るために、戦後急速に広まった製造方法のこと。
一方、静置発酵法は昔ながらの食用酢の製造に用いられる製法だ。
簡単に言えば、これは原料の入ったタンク内でアルコール発酵と酢酸発酵が同時に進行する発酵法で、人為的に攪拌を行わず、自然の対流で発酵が促していくのが特徴。
タンク内の醸造には最短でも2ヶ月がかかるため、タンク内でじっくりと熟成が進み、味にコクや深みがもたらされる。
宮崎市佐土原町でお酢を作り続けて80年以上になる『石川工業』。
この醸造蔵もこの静置発酵法を代々受け継がれる伝統とし、お酢を熟成発酵させ、作り続けてきた老舗である。

3代目の時代からは宮崎県産果実を使ったお酢造りにも注力

『石川工業』といえば、創業以来の主力商品であり、酒粕を原料に造られる醸造酢「日本酢(やまとす)」の醸造場として知られている。
その一方で、3代目で、現社長の石川榮康さんの時代になってからは、現代の多様な食生活に対応すべく、また醸造場としての新たな可能性を見いだすために、さまざまな果実を使ったお酢の製造にも力を入れてきた。
それらの原料となるのが、宮崎県産や九州産の桑の実やブルーベリー、ショウガなど。中でも全国でも珍しいお酢として注目を集めるのが「またたび酢」だ。
原料は九州山脈に自生する天然のまたたびを乾燥させたもの。
またたび特有の風味は、シンプルに酢の物に使っても、肉料理や南蛮漬けなどのアクセントに加えても美味しさを引き立てくれる。

老舗の歴史を受け継ぐべく、若き4代目がお酢造りに励む

『石川工業』のような小さな醸造場だけに限らないが、特に日本の伝統的産業においては跡継ぎ問題で家業が立ちゆかなくなる老舗が多い昨今。
実は、この醸造場には、まだ23歳ながら榮康さんの長男・師康さんが4代目として受け継ぐべく、お酢造りに精を出している。
「お酢造りはまさに生き物との戦い。そこが面白いところであり、難しいところ。まだまだ勉強中です」と言えば、「自分がここを継いだ時には、ここも創業100年を迎えます。その時には、父がさまざまな果実を使ったお酢を開発したように、自分も100周年を記念したプレミア酢でも造れるようになれれば」と、決して遠くはない未来を見据えている。
決して大きな醸造場ではない。
しかし、これからも『石川工業』では昔ながらの製法を頑なに守り、手間をかけてお酢を醸し続けるに違いない。