南高梅の生誕の地で、日々梅の木と会話しながら極上のひと粒が生まれる

和歌山県のほぼ南端、梅の産地・日高郡みなべ町。
全国的に知られる南高梅は、このみなべ町の晩稲(おしね)地区が誕生の地であり、この地で365日、梅と対峙するのが、梅農家である堀口育男さんだ。
「人と話さない日もありますが、梅の木とは毎日話しているんです。結構、楽しいですよ」。
朴訥とした印象の堀口さんがそう笑う。
自分は田舎者だからと取材時も緊張しきりであったが、こと梅の話になると目が輝くのだ。
堀口さんが持つ14枚の梅畑は、日当たり、水はけ、土の状況など、それぞれに少しずつ異なる特徴があり、それを見極め、適切な栽培を施すため、常に梅の状況をわかってやるのが務めなのだという。
「しっかり木が根付いていれば、梅は誰にでも作れる。だからこそ僕らの仕事は、梅と会話しながら、梅がどうなりたいかわかってやること」。
木に手をかければかけた分、梅の木はそれに応えて、丸々とした実をつけるという。
それこそが堀口さんの言う梅との会話。
見たこともない美しく輝く肉厚の堀口さんの梅の実を見れば、彼と梅との信頼関係は一目瞭然だ。

「酸っぱくて、旨い!」あふれるよだれが教えてくれる極上の梅干し

「農家が作るんだからシンプルにが基本です。素材の良さを知ってもらえるとありがたいです」。
堀口さんが無添加で作る、昔ながらの梅干しは、驚くほど酸っぱい。
それが炊きたてのごはんと合わせれば、じゅわりとよだれが溢れだし、味わうほどに甘さが際立つ。
「木から落下した完熟の梅を収穫し、塩漬けしてから干しただけなんです。おいしいでしょ」。
余計なものを一切入れない梅干しは、まさに「どうだ、旨いだろ」と言わんばかり。
さらに落下直前の梅を追熟させて作る梅シロップは、澄んだ味が特徴。
これを氷砂糖と合わせて漬け込んだ後、アクをとりながら弱火で火にかける。
それを炭酸と氷で割るだけで、爽やかさ抜群の梅ジュースに。
初夏に訪れた取材では、この梅ジュースをスタッフ一同大絶賛。
堀口さんの言う「シンプルに素材の味を」。
そんな一言が胸に響く、極上の一杯が喉を潤してくれた。

あたたかくも飾らない家族だからこそ生み出せる、極上の梅

「うちの梅はこっち、こっち」。
取材中、道案内に、梅自慢、撮影補助まで買って出てくれたのが、堀口さんのご子息の紘太郎君。
梅畑の中を走り回るのはお手の物で、口下手の堀口さんを絶妙の間合いでフォローしてくれるのだ。
さらに奥様の千草さんが、はしゃいだ紘太郎君をたしなめる。
そんな三人の絶妙なやりとりで、常に梅畑には笑顔をがこだましていた。
365日、梅と真摯に向き合い、家族がそれをサポートする。
「少し手が抜ける人だと、こちらも心配しないんですが……」。
休みなく働き、常に梅のことで頭がいっぱいの堀口さんを千草さんが心配する。
さらに父の作る大きな大きな梅干しが大好きでそれを皆に自慢する紘太郎君。
きっとそんな父の背中を見て、息子は育ち、奥様はそっと影でフォローしているのだ。
3人の家族がお互いに尊重しながら生み出される、梅。
この場所には、梅づくりに通ずるシンプルな幸せがそこにはあった。