歴史ある函館の町で連綿と受け継がれてきた食文化を守る

江戸末期に横浜、長崎と並んで開港した由緒がある函館。
小田島水産食品はそんな街の食文化を後世に伝えるべく奮闘するメーカー。
大正3年に遡る創業当時は食料品店だったが、先代が昭和22年になって加工会社に転じた。
跡を継ぐ3代目の小田島隆さんは言う。「復員して一年間、ちくわを作る留萌の北産食品に先代は勤めていました。報酬代わりに分けてもらったのが塩。戦後間もない当時、塩は貴重で、それを使ってこの場所で塩辛づくりを始めたんです」。
事務所と工場が入る今の建物は戦前から「ほとんど変わらない」歴史があり、界隈の移り変わりを見守ってきた。
小田島さんには子供の頃、工場に並ぶ200本の木樽の記憶もしっかり残っているという。
「昔の塩辛はイカの身とゴロを、総量の約20%という強い塩で漬け込んだ保存食でした。今は5%の塩分量で漬け込んでいます。けれど、木樽だけはやはり変えられません」。
キッパリと語る、その言葉には小田島さんの塩辛が格別に美味しい、化学的根拠があった。

美味しい塩辛に欠かせなかった、木樽に棲む微生物の働き

「実は20年ほど前、ほかの多くの加工会社がそうしたように、ウチも軽くて扱いやすい、プラスチックの樽に切り替えようとしたことがあるんです。けど、それではウチの味が出せなかった」。
そう、小田島さんの塩辛が美味しいのは、この木樽で仕込んでいるから。
木樽に棲む微生物が塩辛の熟成には欠かせなかったのだ。
「発酵学の権威、小泉武夫先生にも太鼓判を押して頂きました。ウチの塩辛が桜色で美しいのも微生物の働きだと」。
仕込み方も往時の手法を踏襲している。まず主原料である国内産のスルメイカを捌き、一日、塩漬けに。その後、木樽で熟成させること一週間。
日々行わなければならないのは数分間、樽の中を木の棒で突いて空気を入れ換えること。
微生物の活動を助けてやる必要があるのだ。
これは、仕込んだ翌日に出荷となることも多い、昨今の加工会社とは全く異なるスタイル。
しかし、だからこそ、余計な調味料を一切加えずとも、これほどの旨みに満ちた塩辛ができ上がるのだ。
この塩辛をベースに、小田島さんは新しい製品づくりにも積極的。
新潟特産の発酵辛味調味料、かんずりを合わせた『かんずり入りイカ塩辛』は2014年に誕生したばかりだし、さらには石川県能登の出身で初代の妻でもあった、おばあさまが作り、小田島さんも大好きだった味を甦らせた『おばあちゃんの松前漬』も今は展開している。時間も手間も惜しまず──。

次世代が喜んで食す、昔ながらの味わいを積極的に提案

「よくいろいろな方が工場を見学したいとおっしゃって下さって、タイミングが合えばご案内しているんですが、先日も子供たちが校外学習で見学にやってきました。しっかり発酵させた自然な味で、旨みも強いからでしょうか、塩辛は苦手と言っていた子も『これなら食べられる』って。嬉しいですよね」。
そう言って微笑む小田島さん。
小田島さんは塩辛の新しい食べ方もいろいろ研究していて、カマンベールチーズに木樽の塩辛を乗せて食べれば、「相乗効果でどちらも、より美味しく感じられる」だけでなく、ワインによく合う抜群のアテに。「ワインと言えば、かんずり入りイカ塩辛で作るアヒージョもお薦めです」。
そうして塩辛の新しい魅力を発信しつつ、昔ながらの製法には先人の知恵が息づいていることを知らしめている。