食の都・京都で愛され続ける秘訣は、変わらぬ味への思い

「井筒屋長兵衛」というなんとも京都らしい古風な名。
その印象通り、創業の歴史をたどると、京の町が動乱に揺れた幕末の時代にまで遡る。
その後、屋号を縮めた「井長」の名で永く親しまれる同店。
関西ではあるいは百貨店に暖簾を出す近年の別名「三央」の方に馴染みがある方も多いかもしれない。
そのどれもが、京都で支持を集め続ける信頼のブランドだ。
150年を越える歴史のなか、呼び名はいくつか変わってきたが、変わらぬものはその品質。
最高の魚を伝統の手法で加工し、その旨みを最大限に引き出す。
そんな老舗のプライドともいうべき信念が、店の評判を支え続ける何よりの原動力なのである。

干物の味の決め手は、ミネラルをたっぷり含んだ天草の塩

干物と京味噌漬けがこちらの二枚看板。
まずは干物に込められたこだわりを見てみよう。
素材となる魚は、全国各地の生産地から最高級品を厳選し、旬の時期に仕込む。
干物に旬は無関係と思われそうだが、とんでもない。
旬魚の豊富な脂や皮目と身の間に詰まった旨みが、適度に水分が抜けることによりギュッと凝縮されるのだ。
干物の旨みと鮮魚の瑞々しさを兼ね備えた“朝開き”も同様。毎朝山陰から京都中央市場に届く最高級魚を、店主みずからが厳選、その目に叶う魚だけが「井筒屋長兵衛」ブランドの干物となるのである。
さらに決め手となる塩は、熊本県天草灘の海水を平釜で煮詰め、さらに3日間の“寝かせ”を行う「天草の塩」のみ。
自然のミネラルをたっぷり含んだこの塩が、魚の旨みをさらに引き出してくれるのだ。
旬の魚を仕入れ、京好みのうす塩を振り、程よく風に当て天日に干し。
いたってシンプルな工程だが、細部にまで妥協のない仕事が、ひと味違う干物を生み出すのである。

ほのかに甘く、コク深い。京味噌漬けは京都石野の白みそ仕立て

干物と並ぶもうひとつの看板が、京味噌漬け。
もちろんこちらにも、さまざまなこだわりが詰まっている。
使用する味噌は、米麹の甘みのなかにまったりとしたコクが感じられる石野の白つぶ味噌。
これに清酒とみりんだけを混ぜ合わせた特製味噌に軽くふり塩をして一晩置いた魚を漬け込み、寝かせること3~4日。
完成した京味噌漬けは、ほのかな甘さと魚本来の旨み、そして白味噌のはんなりとしたまろやかさが一体となる上品な味わいだ。
素材の個性を見極めながらすべて手作業で行われるため、仕込める量は一日に150切れ程度。
生産が追いつかないこともあるが、昔ながらの技法を守り、職人の手によりひとつひとつ仕上げることがこちらの流儀。
食べればわかる味の違いは、きっとそんな熱意に支えられているのだ。