町の特産品も料理に仕立てて供す、地元で愛されるレストラン

店に足を踏み入れた瞬間、スタッフの元気な声が響き渡る。
「いらっしゃいませ!」。
良い店には良い“気”のようなものがあるというが、それを実感したように思う。
「実は店の地下に10トンもの備長炭を埋設しているんです。そうするとマイナスイオン効果で澄んだ空気になる」。
語るのはオーナーシェフの鈴木賢司さん。
鈴木さんが営む、ゆたかは十勝平野のほぼ中央に位置する池田町で愛され続けるレストラン。
昭和45年に父が始めた際は寿司専門だったが、8年前に跡を継いでから日本料理中心に幅広くメニューを展開する店に進化。
今では平日の限定御膳に行列ができるほどの人気で、自家製豆腐などの酒肴のほか、地元の特産品である、いけだ牛を使った洋食なども用意し、独自のスタイルを確立してきた。
生産現場にも積極的に足を運ぶ、そんな鈴木さんが創った一品が『和ちいず 山わさび入り』。

生産者の依頼を受け、己のキャリアも活かしつつ創作した一品

鈴木さんが『和ちいず』を考案したのは2011年。
冷涼な気候で、周囲の山々に自生する作物に山ワサビがあり、それを生産する農家もあったのだが、彼らから「何か加工品は作れないか?」と言われたのが創作を始めたきっかけだった。
試行錯誤を重ねる中で、「酪農王国の十勝だからチーズと合わせたらどうか?」と閃いたのは、地元に戻るまで東京や道内のフレンチレストランで研鑽を積んできた鈴木さんだったから。
けれど、厨房の一角で山ワサビを自らすり下ろす調理過程は想像以上に大変だった。
「まずチーズを温めて溶かし、そこに鰹節と十勝ワインの白を少し入れて風味を出し、仕上げに山ワサビを練り込んでいます」。
仕上げに加えるのは繊細な山ワサビの香味を活かし切るため。
完全な手作業だから、一日に作れるのも「頑張って120パックが限界」で、すり下ろす際に揮発性が高く、一般的なワサビの数倍といわれる山ワサビの刺激が目を直撃。練り込む作業にもかなりの根気が必要だが、それでも「地元のレストランが地元の特産品で作るから意味がある」と手作りを貫いている。
当初は店で提供する一品だったが、「手土産にしたい」という客の要望から、販売も開始したのは翌年の2012年。
山ワサビの香味がしっかり活きて、旨みも濃厚な美味しさはワインのアテにもいいと評判に。
観光庁が認定する「世界にも通用する究極のお土産」にノミネートされるまでになり、さらに、ほかの多くの認定証も獲得している。

地元の魅力を発信したいと願う、シェフの真摯な心意気

「降雪量は札幌よりずっと少ないんですが、気温はマイナス25℃になることもある」。
高台にあって、店から車でわずか数分のところにある、十勝ワイン城で緑豊かな町を見下ろしながら、感慨深げに語る鈴木さん。
町営で醸造される十勝ワインを『和ちいず』に使っているのも、きっと、地元に対する鈴木さんの思慕の気持ちがあったからだろう。
「商品名に“和”の一字を使ったのは和食の和と、それから足し算、つまり和算の結果、生まれたという気持ちを込めたかったから」。
鈴木さんが心を込めて手作りする『和ちいず』は池田町が育む、様々な食材の融合から誕生した、もはや、町が誇る特産品だ。