有機米100%の酒を醸し、日欧米で有機認証を受ける酒蔵

「美味しい」「安心」「楽しい」。この3つのキーワードをコンセプトに、造られるモノは? そう聞かれて、日本酒! と即答できる人は少ないだろう。『天鷹酒造』は栃木県大田原市にあって、那須を代表する地酒「天鷹」で知られた酒蔵。創業は大正3年に遡る歴史がある一方で、「良い酒は良い原料から」をいち早く提唱。純米酒という呼称すらなかった半世紀近くも前から、「米だけの酒」も醸してきた。今日、「美味しい」と「安心」の言葉をわかりやすく伝える純米酒に、契約する4軒の生産者から有機JSA認定の有機米を仕入れて、それだけで醸す天鷹がある。「有機純米大吟醸天鷹槽搾り原酒」「有機純米酒天鷹」はその代表だ。3代目の尾﨑宗範社長が誇らし気に語る。

「有機認証は基本的にWHOで標準化されていますが、日本ではJAS法によるなど、国により微妙に基準が異なります。私たちの有機日本酒は日本のほか、アメリカとEUでも認証されるように、それぞれの中で最も厳格な基準でつくられています」

目指すは世界標準。オーガニック清酒とも言える、有機純米の天鷹を生んだ尾﨑さんの視線の先には、確かに世界が広がっているのだ。

真のミード(蜂蜜酒)を目指して。試行錯誤を経て誕生の新作

「仕込んだばかりの今は朝夕2回、櫂入れをしなくてはなりません」

長い櫂棒を両手でしっかり握り締め、力いっぱい上下運動を繰り返すのは大西陸さん。醸造学を学び、蔵に入って3年になる彼が昨日、仕込んだのは「はちみつのお酒」。国産の蜂蜜だけを使い、去年、製品化された新作だ。「お酒の苦手な女性でも飲みやすい」ことを目標に、ただ甘いだけでなく軽さ、爽やかさも加味すべく、試行錯誤を重ねてきた。念願の製品化が叶ったからか、重労働をこなしながらも大西さん、どこか嬉しそう。様子を見守っていた尾﨑さんは言う。

「蜂蜜を発酵させて醸す、フランスで言うところのミードという醸造酒なんですが、その製法に準じようと研究は長年続けてきました」

天鷹酒造以外にも蜂蜜酒を造る蔵は10軒ほどあるが、中には蜂蜜で割っただけの酒も。日本にはまだ明確な規定がないのだ。

「ですから、昨年の製品発表と同じぐらいのタイミングで、今後の規格化を見据え、関係者と"日本ミード協会"を発足させたんです」

大田原から世界へ。小さな蔵元だからこそできることを一途に

ただ新作を造るだけでなく、造ることで始まる将来を見据える。ただ有機米を使うだけでなく、高齢化が進む栽培の現場を憂い、現代の市場を鑑みて、ならば、若者にも魅力的に映る、世界で売ろうと照準を定める。こうした視座の高さは、天鷹酒造の大きな魅力。

「小さな酒蔵だからこそ、できることがある」。

これこそが尾﨑さんの目論むところで、敷地内にある直販店には米麹、大田原特産唐辛子入りモロミなど食品や調味料も並んでいる。

「何も特別なことをしているわけではありません。麹を扱い、米から酒を醸す私たちの技術を活かして、製品化しているだけです。けれど、その先には世界がある。そのための有機認定です。なんか、いいじゃないですか(笑)。大田原にある小さな蔵元が造ったモノで、ニューヨークでも、パリでも、ロンドンでも、世界を相手に勝負ができる」

思い返せば、天鷹酒造の人々は皆、笑顔だった。3つめのキーワード「楽しい」は、彼らの笑顔が体現している。それはきっと、尾﨑さんの思いを皆が共有しているから。美味しく安全で楽しい。そんな酒蔵の製品だから、こちらも顧客になって笑顔を共有したくなる。