熊野においしい米を。そんな決意でプロジェクトがスタート

「冷めてもおいしい米なんで、おにぎりにしたらむちゃくちゃ旨いですよ」和歌山熊野地区における米作りの推進「熊野米プロジェクト」を率いる田上雅人さんは、あふれるほどバイタリティに満ちている。
元々和歌山は、めはり寿司、秋刀魚寿司、おかいさん(茶粥)など、米食文化が根付いた地域。
さらに生鮪の水揚げも日本一で寿司屋も多い。
だが米だけは県外産ブランド米の勢いに遅れをとり、休耕田も増えていた。
水も空気もきれいで、自然も豊か。世界遺産としても知られ、観光客も多く訪れる。
こんな地で日本食の基本である米がないなんて――そんな思いとともに立ち上がったのが、米穀店の三代目である田上さん。
しかしその挑戦は、決して平坦な道のりではなかった。
最初の課題は、米作り農家を探すこと。
しかし稲作農家の少ない地方だけに反応は芳しくない。
一軒一軒足を運び、頼んで回る。そんな日々がしばらく続いた。

コシヒカリの魅力を受け継ぐ新品種を低農薬栽培で

やがて田上さんの熱意に打たれ、少しずつ協力農家が増えてくる。
しかし、目指すゴールはただ地元で米を作ることではない。
地元で“おいしい”米を作ること。
まず米は、平成17年に開発された新品種「ひかり新世紀」を採用した。
これは99%コシヒカリの遺伝子を持ちながら、稲の茎がコシヒカリよりも20cmほど短いことが特徴。
これなら台風が多い熊野の地でも、安定して育てることができる。
そして抑草には紀州名産である梅の調味液を使い、農薬を極力控える。田上さんが窓口となり、基準の選定と品質の統一を図る。
こうして少しずつ軌道に乗りはじめる熊野米プロジェクト。
さらに田上さん自身も農業参入し、自らの畑で米を作り始めた。消費者との接点である田上さんが米作りを知ることで、一層効率的な広報ができるようになった。
平成22年9月30日には、国の「農商工連携」事業として認定を受け、当初20t以下だった生産量が、現在100t程度に。
「やっとスタートラインという感じ。まだまだ課題は多いですよ」そう言いながらも田上さんは、確かな手応えを掴んでいた。

おいしさだけでない、新たな価値を生み出し米農家を応援

田上さんがおいしい米作りと並行して進めるのがブランディングだ。
熊野の米作農家を盛り上げれば、休耕田も減り、若者も帰ってくる。
だからまずは農家にとって収益となる事業にすることが必要。
そのために、味だけではない熊野米の新たな価値の創出を目指すのだ。たとえばパッケージデザイン。
知人の伝手でパリ在住のデザイナーを頼り、このスタイリッシュで少しポップなデザインに仕上げる。
各種イベントへの積極的参加で名前を売る。さまざまな派生商品も開発する。
そうして知名度が上がり、そして味が認められることで、地元ホテルや飲食店からの問い合わせも増えてきた。
コシヒカリ系特有の粘りと甘みがあり、冷めてもおいしく、低農薬で安心。
生産者の地元愛と情熱によって支えられる熊野米は、米のおいしさを改めて感じさせてくれるような魅力を秘めている。