東京ドーム10個分以上の広大な農地でオーガニックを実践

「一粒、つまんでみて下さい」。
豊かに実った一房のブドウを前に、代表の上田英貴さんは言う。
「肩のところの実がいいですよ。陽がよく当たる、ブドウはそこから甘くなっていく」。
促されるままに食べてみると、何とも言えない優しい甘さ、うっとりするような香りが口いっぱいに広がった。
余市郡仁木町で自然農園が今日、手掛ける畑はおよそ50ha。
東京ドームで言うと10個分以上にもなる広大な敷地に、ブドウのほか、各種ベリーが元気に育っている。
「ブルーベリー、ラズベリー、シーベリー、ボイセンベリー……ブドウもいろいろやっていますよ。全部で7種類ぐらい。果物だけでなくトマトだって作っている」。
そのすべてが有機JAS認定を受けたオーガニックであることに驚く。
これらの作物を加工して作る人気製品のひとつに、ワインがある。
「まずワインが作れるか試行錯誤を重ねて2年、できたら今度は販売できるか、やはり試行錯誤を重ねて2年。ようやく、ここまで来ました」。
そう言って上田さんは和やかに微笑んだ。

有機栽培をより効率よく、円滑に行うための科学的アプローチ

自然農園がスタートしたきっかけは上田さんに宿った、ひとつの思い。
縁あって何度も訪れていたこの町に、何か貢献できることはないか。
そんな思いだ。元々、仁木町はブドウやベリー類が盛んに栽培されてきたところだった。
しかし、生産者の高齢化に伴い、休耕地は増加するばかり。
ならば、その土地で有機栽培を始めよう。
そうすれば、町が誇る自然の魅力がそのまま凝縮された、美味しい作物ができるに違いない。
ワインの醸造に携わって50年、この道のエキスパートで今は自然農園の醸造責任者を務める小川進一郎氏も異口同音に言う。
「生産者が手放した畑でポートランドやキャンベルアーリーなど、それまでこの土地で育てられてきた品種を有機で栽培し、余計なことはせず搾った果汁だけでワインを醸す。そうすれば、この町にしかない特産品になる。そういう信念で作っています」。
有機栽培を合理的に進めるため、科学的にアプローチするのは上田さんの息子である一郎さん。
「畑にセンサーを埋設して土壌の水分量や温度、養分となる窒素やリン、カリウムの含有量のほか、空中の温度や湿度、日照時間までチェックできるようにしています。そうしたデータはモバイル端末でいつでも、どこでもチェックできる」。
一郎さんは長くアメリカで学び、大学の研究機関とも連携を取るテクニカルエンジニア。
まだ試験段階だが、樹液に巻くだけで光合成の量がわかるセンサーなど、取り組みは続いている。
「成育に必要な環境をチェックし、病気の発生を未然に防ぐ。そうすることでより効率的な有機栽培ができる」。
一郎さんの足元で突然、ピョンとコオロギが跳ねた。「有機だからですよ」。
今度は小川さんが微笑んだ。

町に貢献したい一途な思いが結実した、オーガニックワイン

「増やそうなんて思ったことは一度もないんです。ただ、いろいろな方から、この土地を使って、というお話があって自然と農地は広がっていった」。
直営のレストランに備わるテラスで上田さんは感慨深げに言う。
この場所は、十数年前にブルーベリーの栽培からスタートした自然農園の原点とも言える一区画。
自然農園のワインは全日空の国内線でも販売されるなど、多くの反響を得ているが、それでも酒屋や問屋に卸すことはほとんどせず、自社サイトでの通販を中心に商ってきた。
「宣伝はせず、この町に根付いたまま栽培し、この町に相応しい製品を作る。それは私だけでなく小川さんも同じ考え」。
このレストランも、元々は「農場で働くスタッフ、農作業を終えた地元の方に食べる場所を提供しよう」と商売っけ抜きで始めた店。
自家製の酵母で作るピザや、9種からソースが選べるステーキと自然農園のワインを合わせて飲めば、清々しい酸と豊かな香りが心地良くマッチ。気持ちまで豊かになっていく。
「今年、仕込んだ分でワインは1万2000本ぐらいになりますか。これが今の規模でできるMAXの生産量」。
町に貢献したい、その思いは着実に実を結んでいる。