一楽、二萩、三唐津。そう形容される茶の湯の器・楽焼を身近に

日本各地に点在する焼き物の中でも、他と異なる方法論と技術によって独自の地位を築いたのが「楽焼」。
「元々は千利休の侘茶の精神をくみ取って、桃山時代に陶芸家『樂家』の長次郎が創り出した赤と黒の茶碗から、その400年以上に及ぶ歴史は始まりました。まさに茶の湯のために生まれた茶碗なのです」と教えてくれたのは『楽入窯』を主宰する三代目・萬福堂吉村楽入氏。
長次郎に始まった代々の樂家が制作した陶器である楽焼。
現在ではその製法を受け継ぐ10数軒の数少ない窯もまた「楽焼」と呼ばれ、そのひとつが楽入氏率いる『楽入窯』なのだ。
「ろくろを使用しない手捏ね(てづくね)が楽焼の特徴。左右対称では表現できない自然の美しさ、仄かなゆがみ、無作為の美。そんな表現の仕方をされています」。
侘の思想が息づく器。
手に取るとそれは温かくも、どっしりと重みがある、なんとも言えない存在感を放っていた。

人の手だからこそ生み出せる自然美こそ、侘の世界の入り口に

確かに器を手に取ると単一的、工業的な器では決して感じることのない、手作りの温かみと落ち着きがあるから不思議だ。
「茶の湯の世界に興味があれば、ぜひ一度手にとってみて欲しいですね」と楽入氏。
「作陶の証として私が生み出す萬福印の作品は少々値が張るものが多いので、まずは工房の職人たちによる楽入窯印の器などは初心者にもおすすめです」とのこと。
800~900℃という陶器では比較的低い温度で焼かれた赤楽は、手触りが柔らかい印象で、釉薬の変化がみせる色合い、手にしっくりと馴染む胴回りの厚みなど、楽焼特有の醍醐味を感じさせてくれる。
日常の趣味として茶の湯の世界や日本文化を感じたいならば、きっとこの楽焼は存分にその真髄の一端を教えてくれるだろう。

人生を豊かにしてくれる、日本が誇る伝統の美を日常に

取材を通して、楽入氏に話を聞けば聞くほど、“お茶の世界を体験してみたい”と思わせてくれるから不思議だ。
工房に併設された茶室では、ゆったりと心を落ち着かせる時間の大切さを。
手捏ねの工房では、土という自然にふれあう喜びを。
さらには窯の前では何かに没入し無心になる心構えを教えてくれる。
「楽焼には朽ちていく美学もあるのですが、我々には日本の文化を次世代へ継承するということも大切な仕事なのです」そう、はにかみながら笑う楽入氏。
工房では、男女問わず若い陶芸家が日々、器に向かい、火に向かい、自分自身と向き合っている。
人の思いのある器、そこにこそ美しさの根源はあるのかもしれない。
そんな日本が誇る伝統の美をあなたの生活に取り入れてみる。
きっと、それだけで生活は豊かに。