京都の街角に突如現れる白壁土蔵で、昔ながらの醤油造りを

まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような場所がある。

京都御所より5分ほど西に歩いた、一角。新町通りと中長者町通りがぶつかる場所に姿を現すのは、白壁の土蔵と妻を見せた大きな木造家屋。

中長者町通りに面した玄関は、むしこ造りに一本子持ちの格子構えになっており、“もろみ”の文字がひと際目を引く看板が、ここが創業明治12年の老舗「澤井醤油本店」であることを教えてくれる。

暖簾をくぐり中に入ると、タイムスリップ感は一層強くなる。

そう、鼻孔をくすぐる醤油の香りを放つのは、年代物の大きな木桶。

さらに鰻の寝床と形容される京町家の先に目をやれば、今なお薪で炊く大釜が鎮座しているのだ。これこそが「澤井醤油本店」が、今なお頑なに守り続ける醤油造り。

この場所で口伝でのみで伝えられる醤油は、京の老舗割烹から、ご近所さんまで、広く京都の食文化に溶け込んでいるのだ。

時間をかけて醸される、蔵元自慢の二度熟成醤油

「醤油と言っても種類はたくさんあります。色が淡く京料理に好まれる淡口醤油に、甘みや旨みの強いさしみ醤油。

中でもウチの特徴の一つが二度熟成醤油です」。5代目・澤井久晃さんはそう言って、味見を勧めてくれる。

深い紫を称えるその醤油は、口に含んだ瞬間の塩味はやわらかく、ゆっくりと広がる大豆の風味は驚くほどまろやかに溶け出してくる。

これは一度出来上がった生の醤油に、再度、麹を仕込み直す「二度仕込み」を施した醤油であり、手間がかかる分、風味の良さが際立つ仕上がりになるという。

「醸造過程で麹菌への微妙な加減が大切だったりで、この感覚こそが、長く口伝で教えられてきた勘と経験則何だと思います」と澤井さん。

建物自体にも蔵付きの麹菌が棲み着いており、それらすべてが作用して澤井醤油の味は生み出される。

そう長く紡がれる伝統の継承こそが、唯一無二の味を造る秘訣なのだ。

お袋の味の決め手を作るなら、こだわりの醤油を隠し味に

そんな伝統の醤油造りを守り続ける澤井さんだが、手間は惜しまずお客さまに満足してもらう醤油造りがモットー。

「これだけアナログな醤油造りなので、どうしても効率は悪いんですが、こだわりの醤油として高級品にするのはナンセンス。だって、醤油は日本の文化ですからね。皆さんに使ってもらってこそなんですよ」と笑うのだ。

最近では調合済みの出汁などがスーパーなどで販売されているが、できれば各家庭のお袋の味にこそ醤油を使って欲しいと説く。

「市販の出汁でもいいんですが、ほんの一滴でも良い醤油を使っていただけると抜群に風味が立つ。そんな醤油の力を知って欲しいですね」。

料理の仕上げや風味付け、隠し味にも、京都の歴史が育んだこだわりの醤油が活躍してくれるはずだ。