創業から変わらぬ3つの伝統と、手仕込みによる焼酎造り

宮崎県は日南市の南東、海岸線から山間へと車を5分ほど走らせると、明治10年創業の『櫻乃峰酒造』の蔵は見えてくる。
年間の生産量は500~700石の焼酎蔵。中堅蔵で3000~5000石というから、宮崎県に数ある焼酎蔵のなかでもその規模は極めて小さい蔵だ。
が、ここでは、創業以来小さな蔵だからこそできる手仕込みによる焼酎造りにこだわり続けてきた。
そして、それと同時に3つの伝統が今も頑なに守られているという。
そのひとつが醪の発育をよくするために行われる甕壷での仕込み、2つ目が昔ながらの木桶を使った芋の蒸かし、3つ目が減圧という蒸留方法である。
看板商品である芋焼酎「黒麹 平蔵」。
鼻孔をくすぐる芋の甘い香りと風味、それでいてマイルドで優しい口当たりは、このこだわりの製法に秘密がある。

地中に半分だけ埋まった甕壷。手仕込みによる焼酎だからこその理由が…

「新しいものでも100年以上前のものになります。今じゃこの大きさの和甕を作る職人もいないんです」そう教えてくれるのは企画課長の福田芳士さん。
しかも、その甕壷の置き方が実に面白い。
甕壷仕込みによる焼酎造りは決して珍しくないが、甕壷全体が地中に埋まっていたり、床に直置きしたり、その設置方法は蔵によってさまざま。
が、ここでは甕の半分ほどが地中に埋まった状態で設置されているのだ。
醪造りの1次仕込み、醪と蒸かした芋を合わせ発酵させる2次仕込みの両方を甕壷で行っているが、「地下には伏流水が流れていて、甕壷の中の温度が焼酎造りに適している」のだという。
それだけでなく、この置き方は櫂を回しやすく、力加減や繊細な動きがしやすいというメリットも。
「職人の体をいたわることもできるんです」とも福田さんは言う。
つまり、焼酎造りでも重要な工程において、職人の技を最大限に発揮できる仕組みなのである。

全国でも珍しい木桶。地元名産飫肥杉が焼酎の美味しさの鍵を握る

甕仕込みもさることながら、芋を蒸す工程も他の蔵とは一線を画す。
というのも、ここでは全国でも珍しい昔ながらの木桶が使われているのだ。
「地元の名産である樹齢80以上の飫肥杉で、地元では“あかめ”と呼ばれる杉を使った木桶です。その材質は弾力性があり、加工しやすいだけでなく、裂けにくく衝撃にも強い。そして何より、芋を蒸かした時に程よく水分を吸ってくれるため、カラッと仕上がるんです」。
もちろん、この木桶で蒸した芋が、まろやかでクセのないこの蔵独自の焼酎を生み出すことは言うまでもない。
また、2015年に行われた本格焼酎鑑評会では主流となった減圧蒸留にも昔からこだわってきた蔵でもある。
常圧蒸留のような香りが引き立つハードな焼酎ではなく、風味を生かしつつもマイルドな味わいに仕上がる減圧蒸留。
「平蔵」の唯一無二の味わいは、明治から続く3つの伝統と丁寧な手仕込みに支えられているといっても過言ではない。