昔ながらの製法で生み出される、混じりっけなしの粉山椒

「とーん、とーん、とーん、とーん」。
石臼とケヤキの杵が絶えずリズムを刻むのどかな岐阜の山間。
石臼の中を覗けば、鮮烈かつ清爽な香りを放つ山椒の果皮が、まさに粉山椒へと加工されていく最中であった。
10~15分ほど挽かれた山椒の粉は、すぐにふるいにかけられ、細かくなった粉を再び石臼と杵で突いてはふるいにかける。
そうした地道な作業を10回ほど繰り返せば、細やかで香りの高い粉山椒ができあがる。
これこそ、岐阜県奥飛騨温泉郷の村上地区で作り出される昔ながらの粉山椒。
「石臼と杵の関係は、長く突いても熱を持たないことが重要。そういう意味でケヤキの木はぴったりなんです。とてもアナログな機械ですが、これがあってのウチの粉山椒」。
そう話すのは代表の内藤和彦さん。
うなぎの名店がこぞって求めるという粉山椒は、今なおこうした地道な作業で生み出されている。

最盛期を迎えた里山は、山椒の香りが充満し、皆が元気で笑顔に

取材に伺ったのは6月上旬、まさに山椒摘みのシーズンの幕開けだ。
「どっから来た~?山椒摘みは、地元では山椒もりと言うんだよ」。
元気なおばあちゃんが山椒の木から顔を覗かせ、そう笑う。
「晴れた日に摘むのが香りを落とさない秘訣だな~」。
今度はおじいちゃんがボソッと教えてくれる。
山椒を摘む里山は、この時期、老若男女、皆が元気。たわわに実る山椒の木に、周囲では摘んだばかりの実の天日干しが行われ、まさに里山が鮮烈な香りに包まれるようなのだ。
梅雨の合間のわずかな晴天を待ち望み、手で摘み、ござに干し、陰干しと天日干しを行うと、自然と実は割れ、黒い種が顔を出す。6月上旬から中旬はちりめん山椒や実山椒などの佃煮用。
そこから8月までは粉山椒に使う青々とした実が特徴の青山椒。
さらにそこから9月上旬までは、真っ赤に完熟した赤山椒のシーズン。
今年もまた香り高い山椒アイテムが、続々と登場する。

徳川将軍にも献上された飛騨の山椒を今なお大切に守り育てる

岐阜県高山市奥飛騨温泉郷は昔から山椒の栽培が盛んなエリアで、江戸時代には徳川将軍に献上していた記録が残る。
高冷地ならではの寒暖差や、神通川の支流・高原川の清冽な水、水はけのよい土壌など諸条件が重なることで、風味よく辛味の強い山椒は生まれる。
「ミカン科の山椒は爽やかな柑橘の香りと、独特のしびれる辛みが特徴。なかでも飛騨の山椒は代々に渡りこの地に自生する香りの強い個体を選別。接ぎ木によって増殖してきました。ですから地域独自の個性ある山椒ができたのだと思います」と内藤さん。
確かにフローラルな香りが高く、しびれも強い飛騨の山椒。さらに余韻の長さも飛騨山椒の特徴。
料理をピリリと引き締める飛騨山椒は、あって損なし。
気がつけば食卓に爽やかな香りを運ぶ彩る名脇役に。