富山の大地が造り出す、昔ながらの極寒仕込み醤油

のどかな田園風景の広がる富山県小矢部市に、一度味わって欲しい醤油がある。
北陸がもっとも寒くなり、空気と水が澄み渡る1月~3月に仕込まれる伝統的な醤油がそれだ。
原料は大豆、小麦、塩のみ。だからこそ、地元・富山県小矢部産の大豆エンレイを丁寧に蒸し、富山県産の小麦を炒って香りを移す。
製法は、昔ながらの木製の麹蓋を使い、大切に大切に手入れを施し、レンガ造りの麹室で3昼夜、温度を管理する。
そこに海水で溶解する沖縄産のシママースの塩を加え、もろみ蔵へ。
あとは3年間、天然熟成を待つのみ。
余計なもの、無駄なものは一切なく、ただただ実直な醤油造りがそこにある。
するとどうだ、大豆と小麦の味わいをしっかりと残した、まさに富山の味がする醤油ができあがるのだ。
ここでしか生まれ得ない濃口醤油。
この一本で、富山の豊かさを感じて欲しい。

経験則を大切に生み出される一品は、伝統を守り富山の恩恵に感謝

「昔はこの辺りは各町に1~2軒は醤油蔵があったのですが、今ではウチぐらいでしょうか。
小矢部市浅地というこの場所は、土地を掘ればすぐにキレイな水が出るという場所。豊かな水と、先代が守り続けた蔵こそが財産」。
そう話してくれたのは『畑醸造』四代目・畑彰さん。伝統を守り、土地の恩恵に感謝する。
それこそが畑さんが、挑む醤油造りだ。
それはデータ化、デジタル化が進む、現代のモノ作りとは真逆。
例えば、麹造りは3昼夜を寝ずの番で管理し、天井の窓の開け閉めで温度を管理する。
例えば、搾りの行程。
3年間熟成させたもろみは、袋に入れて積み重ねることで、自分たちの重さで自然とテンションがかかり、自然に滴り落ちるのを1週間待つ。
すべては経験則。通常6ヶ月ほどで出荷される醤油が多い中、ゆっくりと3年をかけて熟成した醤油は、丸みを帯びた味わいで、艶やかに輝く。
今なお、手造りされるこの醤油、「一度使うと他が使えない」という熱狂的なファンを全国に持つのが何よりの旨さの証だろう。

発酵の権威も絶賛した、幻の醤油造りがいまだに残る

東京農業大学名誉教授であり、発酵食品や醸造の権威として知られる小泉武夫氏。氏を持ってして『畑醸造』を訪れた際、「我、幻醤ヲ見タリ。」と表現されたのが、守り続けられた昔ながらの醤油造りだ。
昭和初期から使い続けられたレンガ室にはじまり、木製の麹蓋による仕込み、木桶のもろみなどなど、数え上げればきりがない伝統の数々。
それを守る人もまたこの蔵の財産。
4代目・彰さんが先代への感謝を口にすれば、父であり3代目・和行さんは静かに笑う。
さらにラベル貼りや出荷作業など、工場で働く近所のお母さんたちも元気。
「おいしいよ~」「ほかにはない味よ~」「よく来たね」「食べていきな~」と口々に語りかけてくれるのだ。
小泉氏が経験した幻とは、こんな懐かしい人情なのかもしれない。