創業は十一代将軍、徳川家斉の頃。古河で唯一の由緒ある酒蔵

通りに面して重厚なレンガ造りの店舗は、それだけで『青木酒造』の長い歴史を雄弁に物語る。創業は江戸・天保年間。この店が建てられたのは明治初年のことで同時期に建てられた酒蔵も敷地内には現存する。その蔵を案内する青木知佐さんが古い樽を指差して言う。

「ほら、ここにかつての越後杜氏が書き出した数式の跡があります。今でも新酒を仕込む時季になると、福島から杜氏さんをお呼びするんですけど、彼らも酒樽に数字を書き込んで、サッと計算をする」

知佐さんは7代目当主を父に持つ青木家の長女。元は看護師だったが家業を手伝うべく一念発起。持ち前のバイタリティで今は専務として奮闘する日々が続いている。彼女は内外からの人望も厚い。

「家族で代々、守ってきた小さな蔵ですからね。「御慶事」が良いとおっしゃって下さるお客様のために、これからも蔵のみんなと一致団結して、真っ直ぐに、正直に、酒造りに取り組んでいきたい」

地元で愛された銘酒は今や海外でも評価される世界的な存在

御慶事とは青木酒造が誇る清酒の銘柄。3代目が大正天皇ご成婚の折、皇室の繁栄と、我が国のますますの隆盛を祈念して命名。「最高のよろこびごと」を意味している。淡麗辛口に分類されるが、味わいもしっかりあり、地元を中心に長く愛飲されてきた古河の地酒だ。

「昔は地元の方が飲むお酒中心でしたが、最近は純米酒もあります」

知佐さんが指摘する通り、時代のニーズに応じ、今日ではタイプも多彩に揃う御慶事だが、外部の評価も上々。

例えば、全国新酒鑑評会だ。これまで何度も金賞は受賞してきたが、至近で言うと2014年、15年と二年連続で御慶事の大吟醸が金賞を受賞。

さらに、海外で最も影響力のある品評会のひとつ、IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)の"SAKE"部門では2015年、タイプ別に全国の各銘柄へトロフィーが授与される中、御慶事も純米吟醸でトロフィーを受賞。今や世界が認めた日本酒が御慶事なのだ。

こうした評価は、ただ歴史を積み重ねただけで成し遂げられるものでなく、知佐さんを始めとする青木酒造、皆の真摯な姿勢があったから。

昭和30年代に建てられた蔵には杜氏が酒質をチェックする研究室もあり、味がブレないよう現代的手法も積極的に取り入れている。伝統的にはひたち錦やふくまる、地元・古河の日本晴れなど、茨城県産の酒造好適米を重用してきたが、一部で兵庫県特A地区産の山田錦も取り入れて、新たな御慶事にも取り組んできた。

そうして醸され、最高峰に位置づけられる銘酒が「御慶事 純米大吟醸 袋吊り斗瓶取り」。酵母にはM-310という茨城が発祥で豊かな香りを醸す酵母を使っている。

日常の中にある、ちょっと特別な日に飲みたい最上位の御慶事

「袋吊り斗便取りは、モロミを木綿の袋に入れて、自然に流れ落ちる雫だけを瓶詰めにする、贅沢な搾り方。最近、始めた方法です。さらに純米大吟醸では、瓶詰めした後、低温貯蔵で様子を見ながら二年ほど、寝かせています。そうすることで、甘さに丸みが出てトロッとした感じになる。味わいに、まろやかさも加わるんです」

酒造りの粋を集めて、醸された最高の純米大吟醸は、味わい深く、「おつまみ不要で、これだけで楽しめる」と早くも評判。酒臭い酒とは一線を画す、女性でも飲みやすい日本酒に仕上がっているのだ。

「吟醸香もじっくり楽しんで頂きたいですから、香りの広がるワイングラスやカクテルグラスで飲むのがお薦め。けれど、最終的にはお好みですね。ご自身の気分がアガる、お好きなグラスでどうぞ(笑)」

女性ならではの視点で、御慶事の純米大吟醸、袋吊り斗瓶取りの楽しみ方を教えてくれた知佐さん。数々の授賞式に和装で参加し、認知度の向上に努めてきた、その働きはまさに青木酒造の広告塔そのもの。日本固有の文化が広く見直されている昨今、知佐さんのような女性が酒造りの現場にもいるという事実を、心から誇らしく思う。