何もかもが規格外。若き醸造家の夢はワインから生まれる空間づくり

異色の経歴である。大学では工学部で情報通信工学を学び、その後、思うところあって、大学院で法務博士号を取得。「27歳まではきちんとワインを飲んだこともなかった」と笑うのは、醸造家・髙作正樹さん。IT関係の有名企業も目指せただろうし、法曹界で活躍も決して夢ではない経歴。それが現在、髙作さんが働いているのは、能登半島の輪島市門前町。海を見下ろす高台のワイナリーで、せっせと葡萄と格闘しているのだ。 「ワインを中心に、そこにいろいろなものが加わっていくのが理想。ものづくりを仕事にしたいと思った際、ワインは単にきっかけだったんです。ワイン造りを媒介に生まれる、さまざまな空間づくりこそが目指すべき姿。それが今ではワインに夢中ですが」。髙作さんはそう笑うのだが、それは決して夢物語ではない。2012年ワイナリーを創設、2015年にはワイナリー横にオーシャンビューのレストランを併設したかと思えば、すぐさま敷地内にパリ帰りのブーランジュリーも。さらに来年にはオーベルジュ計画と......。ワインを媒介に続々とど田舎に仕事が生まれている、そう髙作さんの夢に共感する人々が、この場所に続々と吸い寄せられているのだ。

能登のテロワールと、科学的検証により生まれる唯一無二の味

ワインは、新潟の『カーブドッチワイナリー』やフランス・ブルゴーニュの『ドメーヌ・シモンビーズ』で修業を重ね、できる限り自然な味わいを追求してきた。「そこに能登の恩恵である海からの風と肥沃な大地が加わり、ここだからこその味ができれば」と髙作さん。畑で出会ったコガネムシは農薬を撒いていない証であるし、垣根仕立ての畑には太陽光が燦々、そこに皆月湾からの涼しい風が小さな葡萄のつぼみを揺らすのだ。それだけでこの土地で生まれる味に期待がもてる。そうかと思えばワイナリーでのワイン造りは、ステンレスタンクにジャケットを取り付け、冷水、温水で温度調整するなど、徹底的にデータ化。「経験が浅い分、科学的データに基づいて、分析しています。さらに言えば、資金作りの際の資料作りは法律を学んだ賜物」。そう、情報工学に長けた技術も、法律で培った文章力や資料作りも、今までの異色の経歴が次々とつながり、髙作さんのワインは生まれている。

毎年毎年を、楽しみに待ちたい少量生産のワインを4種類

現在の生産本数は年間にして2万5000本ほど。決して多い数字ではない。ビターチョコレートやプルーンのアロマ、そして濃厚な果実味があり、酸とのバランスも良い「メルロー」に、カシスやプルーンのような香りを感じ、華やかさが印象的な「相承」の赤、柑橘類、ネクタリン、メロンの香りがあり、南国を思わせる仕上がりの「シャルドネ」、爽やかな柑橘系の香りから、時間とともにハチミツやバニラのような香りがふくらむ「相承」の白と、今回は髙作さんのセンス際立つ4本をセレクトいただいた。「毎年毎年がチャレンジ。ぜひ、一緒に能登ならではのワインを楽しんでもらえたら嬉しいですね」と笑顔だ。毎年、成長を見守りたくなる能登の小さな小さなワイナリー。そんな髙作さんの空間づくりに共感できたなら、ぜひワイナリーでの食事に宿泊と、このワインは人生を豊かにしてくれるスパイスになることうけあいだ。